QSV 20130709

2013年7月9日 火曜日 by かわもと眼科院長

今日もまた,暑い一日になりそうです!

 

先日当院の外来を受診された患者さんが,別の眼科で「角膜内皮細胞が少なくなっているから,コンタクトレンズはダメ!将来白内障の手術が出来なくなるから,うちではコンタクトは処方しません」と言われたと,受診されました。この患者さんの話を聞いていて,複雑な思いにかられました。確かにコンタクトレンズ装用者で角膜内皮細胞が少ない人がいます。ただコンタクトレンズ装用者全員がそうなる訳ではありません。外来診療をしていて,装用年数が長そうな人を診たときは,細隙灯顕微鏡で内皮の状態をみて,内皮細胞が減ってそうな人には詳しい検査をします。それでも,ごく少数です。無論,ごく少数だからといって内皮細胞が少なくなっている患者さんをそのまま放っておいて良いというものではないでしょう。場合によっては処方中止も考慮しなければいけません。私が複雑な思いにかられたのは,「将来白内障手術が出来なくなる」という点です。

現在の白内障手術は「超音波乳化吸引術」の全盛期です。しかしこの術式は幾多の困難と課題を乗りこえて今日に至っています。この術式が初めて臨床応用されたのが,1967年。ちょうど私が生まれた年です。「超音波乳化吸引術」の黎明期には多くの不可逆的な合併症が発生し,当時の一般的な白内障手術の術式と比較しても,格段に見劣りする術式でした。しかしその後改良に改良が重ねられ,周辺機器や周辺医療材料も進歩して今日の全盛期を迎えることになります。まだ海のものとも,山のものとも分からなかった時代にこの「超音波乳化吸引術」に飛びついた数少ない眼科医(彼らこそ,eary adaptorです)は,幾多の苦労の末,大きな名声を手にする事になりました。一方で,「超音波乳化吸引術」の欠点ばかりに目が向き,旧来の術式に固執し続けた眼科医は,その後メスを措いていく運命を辿っていきました。

時代の流れは止まりません。「超音波乳化吸引術」全盛の今日,再び新しいコンセプトの白内障手術の術式が登場しつつあります。私は「超音波乳化吸引術+折りたたみ式単焦点眼内レンズ挿入術」全盛の真っただ中を眼科医として歩んできました。私と同じくらい,もしくはそれ以上のキャリアを持たれている眼科医の多くは,この新しい白内障手術の術式に対して,「今の術式の方が安全」「新しい術式は時間がかかりすぎる」「器械が高価すぎる」などと,新参者の欠点ばかりに目を向けています。しかし全盛を極める「超音波乳化吸引術」が10年後も今の地位を保てているか?それは誰にも解りません。10年後,56歳になる私は,まだまだメスを措きたくはありませんから,この新しい流れに何とかついて行こうと思っています。またそういう環境下で眼科医として仕事をさせてもらえている事に幸せを感じています。

冒頭の患者さんには,「確かに角膜内皮細胞は少ないですが,仮にあなたが今,白内障の手術をしなければならなくなったとしても,私自身の手術データからは合併症無く手術することは可能ですし,仮に合併症が起こっても当院で対処可能な範囲です。しかしあなたが実際に白内障の手術を受けるのは,多分25年から30年以上先の話(患者さんの年齢は35歳でした)でしょうから,その時には今よりももっと素晴らしい術式が発達して,あなたの角膜内皮の問題は解決されていると思いますよ」と説明したところ,その方はコンタクトレンズの処方を希望されました。

 

QSV: Quest for Super Vision(究極の見え方の追求)

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